死んだ亀

デッドタートル

キューバ:なぜ旅行は準備が楽しいのだろうか。

2017年後半、当方の中には空前絶後キューバブームが巻き起こっていた。

本、雑誌、SNS等ありとあらゆる媒体がキューバ旅行をけしかけてきた。アメリカと国交を回復してしまった今、「キューバ」を満喫できるのは今しかないと囁いてくる。今を逃すともう二度とキューバに行けることはないと、謎のプレッシャーを感じていた。

 

そんな焦りの中、早速相方を口説き落とし、上司に残酷な休暇宣言を告げ、キューバへの渡航を現実のものとした。2017年末から2018年初の旅程。

 

それからというもの、イワシの大群が大魚の体をなすように、私の生活のありとあらゆる部分がキューバへと向かっているのを感じた。

 

私は旅をするときに決まってすることが一つある。それは、現地の言語を多少なりとも勉強することだ。現地の人と、現地の言語で会話することで、何か壁が一つ取っ払われ、「観光客」という仮面が取り外され、人と人との純粋なコミュニケーションが可能になる、あるいは、それに少しでも近づくことができると信じているからだ。旅行が決まったその日から、スペイン語の入門書を買い、アルファベットから勉強し始めた。毎回のごとく、仕事、旅行準備、忘年会…など使い古された言い訳を並べて完全修得に至らないのであったが。

 

全力の準備を積み重ねたキューバへの渡航は、あっという間にやってくるのであった。キューバへ行くのだから、「キ」っという間にやってきたのかもしれない。気が付けば仕事を納め、忘年会を終え、12月28日、トランクにお土産用の空間を用意し、家の戸締りや諸々の器具の電源が落ちていることをしっかりと確認し、恋焦がれたキューバへ旅立とうとしていた。長くあこがれた野球選手の引退試合を見届けに行くかのような、そんな気持ちで。