死んだ亀

デッドタートル

キューバ:googleにできる旅はしない

我々は羽田空港吉野家で最後の日本食を満喫した。なぜだろう、キューバ旅行で死を覚悟していたので、むしろ最期の日本食として吉野家を食していた。「人生最期に食べるなら~?」という陳腐な質問は、いつも私を苦しめるのだが、結局のところ、最期の食事という圧倒的な重みに耐えうるものなんてそうそうなくて、むしろ吉野家くらいがと言っては失礼だが、吉野家こそがちょうどバランスがとれるような気もした。

 

出国審査を終えた私たちは、免税店で靴を買った。フェラガモの靴だ。税金が免除されるうえに、謎のセールも相まってほぼ半額で買えたそのフェラガモの靴に、相方も喜んでいた。出国審査という形式的なハンコ一つで、税金が不要になる、という人間の作り上げた仕組みについて考えをめぐらす機会になった。あのハンコは私たちを日本国という徴税主体から解放する「免税符」なのだ。旅の出発時点で荷物が増えるということを除いては、素晴らしい仕組みだ。

 

エアカナダ機内では、Canadian Lagerを飲むという典型的な観光客的行為を実践し、往路の飛行機で寝不足に陥り体調を崩すというありがちなミスを犯さないよう、早々に眠りについた。キューバがもうすぐ先に近づいているという事実が心を躍らせたが、どれだけ心が躍ろうが、というよりむしろ心が躍り疲れたからか、ナイアガラの滝よりはるかに深い眠りについたのであった。

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そういえば、トロント乗り継ぎでキューバに行くことが決まった時、トロントの空港から2時間ほどでナイアガラの滝がみられるということを知り、ナイアガラの滝まで行くか、迷った時期もあった。結論としては、「夜中に凍った滝を見て意味ある?」という一言で、あったかいホテルでゆっくり過ごすことに決した。昔から観光地へ行って建造物や自然的造形を楽しむといった旅に興味はない。googleで「ナイアガラの滝」と打ち込めば、滝に流れる水の分子ほどそんな写真は出てくるし、わざわざ行かずとも楽しめるからだ。googleにできる旅はしない、それもまた私の旅のモットーなのかもしれない。

 

そうこうして、-13℃のトロントへ降り立った。人生再寒の体験は、まず呼吸をすることすら困難に感じた。こんな地で生活している人々の気が知れないし、ますます常夏のキューバを心から欲した。体が芯から冷え切った後に温かいお風呂に入りたくなるように。トロントのホテルで薄くお湯をため、暖をとったことは言うまでもない。

 

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あと一晩でキューバ、そんなわくわくする夜が他にあるだろうか。あのgoogleでもそんな夜のことを知らないかもしれない。